Lesson2-10 幼児期⑤

このレッスンでは、幼児期の発達のうち、
他者を理解する「心の理論」や「性別の意識」などについて解説していきます。

心の理論

「相手がなぜそのような行動を取ったのか」
「きっとこのように思ったからだろう」

このように、相手の行動や仕草から、
相手の気持ちを推測して理解できることを、
「心の理論」と言います。

しかし、幼児期の子どもは、
まだ他者の気持ちを推測することが難しいものです。

相手の気持ちを推測し、理解しようとする能力の獲得は、
4歳ごろからになります。

次の「サリー・アン課題(※)」を見てみましょう。

  1. 部屋に、サリーとアンがいます。
    サリーはかご、アンは箱を持っています。
  2. サリーが、ボールをかごの中に入れて、
    散歩に行きました。
  3. アンがかごの中のボールを、箱に入れました。
  4. サリーが戻ってきて、「ボールで遊ぶ」と言いました。

質問:サリーはどこを探しますか?

この問いに、3歳までの子どもは「箱」と答える子がほとんどです。

これは、自分はアンがボールをかごから箱に移したことを知っているが、
サリーが知らないことを理解できないためです。

自分が知っていることと、相手が知っていることには違いがあることが、
まだわからないのです。

これが4歳以降になると、「かご」と答えられる子が増えていきます。

※サリー・アン課題は、心の理論の発達を測るための心理検査です。

心の理論とウソ

ウソをつくには、相手の考えを推測する能力と、
相手の気持ちを自分が意図する方向へ向けさせる能力が必要です。

つまり、上手にウソをつくためには、
心の理論を獲得しなければなりません。

そのため、3歳ぐらいまではまだウソがつけず、
上手にウソがつけるようになるのは5歳以上くらいからとなります。

なお、3歳ぐらいまでに見られる「ウソ」は、
記憶の未発達や、

自分を守るためのとっさの言動や言い間違いによるものです。

大人から見ると「ウソ」に思えますが、
意図的ではないことがほとんどです。

性別の意識

子どもはいつごろから性を理解しはじめるのでしょうか。

次の表を確認してみましょう。

①性の同一性子どもは3歳ごろになると、
男女の区別を理解するようになり、
自分も「男」または「女」であると認識する。(自分は女の子だ)
②性の安定性その後、大人になっても性は変わらないことを理解する。(大きくなっても私は女の子)
③性の一貫性5歳ごろには、服装や行動を変えても、性はそのままであることを理解する。(ズボンを履いても私は女の子のままだ)

一方で、「女らしさ」や「男らしさ」は、
周囲の環境に影響を受けます。

例えば、

「女の子だからピンク」
「男の子だから青」
「料理はお母さんがするもの」
「車の運転はお父さんがするもの」

など、周囲の大人が無意識のうちに子どもに
ステレオタイプを植えつけてしまっていることが多いのです。

最近では、こうしたステレオタイプにとらわれず、
もっと自分らしさを大切にして、
自由に行動ができるようにすることを目指す
「ジェンダーフリー」の考え方が広まりつつあります。

周囲の大人も、自分にステレオタイプがあることに気づき、
子どもの「らしさ」を尊重してあげる姿勢が求められます。

トイレトレーニング

子どもが2,3歳ごろになると、
トイレトレーニングを気にする養育者が増えてきます。

一般的には、トイレトレーニングは3歳ごろまでに完了することが多いと言われています。

しかし、できるようになるまでには個人差や男女差があります。

男児は女児よりも、トイレトレーニングに時間がかかる傾向があるようです。

トイレトレーニングが完了しても、
遊びに熱中したり、楽しいことをしていたりすると、
おもらしをしてしまうことは多々あります。

また、きょうだいの誕生など環境の変化があると、
できていた子も退行してできなくなることがあります。

いずれにせよ、いつかは失敗せずにできる日が来るので、
あまりプレッシャーをかけずに、受け止めてあげる姿勢が必要です。

※医学的な理由でおもらしをしてしまっている場合もあるので、
その時には小児科を受診しましょう。


ここまで5回にわたって幼児期の発達について学習してきました。

幼児期はかわいい時期ではあるものの、
養育者を悩ませたり、
大人が理解できないような行動を取ることも多い時期です。

発達の段階を知ることで、
子どもの行動を予測したり、理解するのに役立てましょう。

次のレッスンからは、児童期の発達について解説します。